Always Railways (11)ホームから海が見える駅

下灘駅からの夕陽
写真1 下灘駅からの夕陽

「お客さん、上りが来ますよ」と駅員さんにトントンと腕を叩かれ目を覚まし、ホームのベンチから体を起こす寅さん。「男はつらいよ 寅さんと殿様」(第19作)の冒頭の場面です。「しもなだ」と柱の駅名が読み取れます。画面は高いところから広く見下ろした映像に替わります。1面2線の駅で列車がすれ違えることがわかります。今では埋められてしまった線に国鉄色に塗られた2両編成の列車が入線してきます。海側の線路のすぐ外側は海です。当時、海に一番近い駅、と言われていた筆者が知らない下灘の風景が映画の画面に鮮やかに写っていました。ちなみにマドンナのMさんが伊予大洲の駅でもの憂げに外を眺めていた列車には今では珍しい「サボ」が掛けられていました。サボはサイドボードの略で、列車の行き先を表示したものです。さり気ない場面ですが、山田監督の深い鉄道知識がうかがえます。

予讃線の下灘は静かな駅です。今は1面1線の駅で、海側にあたる線路の外側の低いところを国道が走っています。寅さんが横になっていたホームのベンチに座ると目の前に伊予灘が広がります。昼間は青い海が眼に沁みます。夕方には暗くなった海を夕陽が染めます。(写真1) 人家以外には何もない、海だけが広がっている静かな駅です。今は無人駅ですが、地元の方たちが駅を整えられていることがわかる気持ちの良い駅で、かつてレールが敷かれていたところは花壇となり花が植えられています。待合室も掃除が行き届き、ゆったりとした気分で列車を待つことができます。(写真2)

下灘駅の駅舎
写真2 下灘駅の駅舎

この下灘駅は1998年の冬から2000年の冬まで、3年連続で青春18きっぷのポスターに登場しています。ポスターの近い構図の写真を紹介いたします。(写真3~5)

1998年冬のポスターの類似構図 1999年冬のポスターの類似構図
写真3 1998年冬のポスターの類似構図/写真4 1999年冬のポスターの類似構図

2000年冬のポスターの類似構図
写真5 2000年冬のポスターの類似構図

1998年冬のポスターでは線路の海側の低いところに国道が走っています。1999年のポスターでは駅標が半分写っていました。2000年冬のポスターが良く知られていると思います。そのポスターでは写真5と違って高い空と広い海が広がっています。これは特殊なパノラマカメラを利用して撮影、合成されたと聞きました。一般のカメラではポスターの構図での撮影は難しいようです。ホームはそのままです。
ポスターに2度登場しているところはいくつかありますが、3度はここだけと思います。

 

松山を出た列車は向井原で海線と呼ばれる旧線と、特急が走る山線、すなわち内子を通る新線に分かれます。海が美しい下灘、串などは海線で、単行のキハが走ります。筆者の感覚では列車本数は比較的多いと思いますが、時間に気をつけて海を満喫してください。

松山で思い出す食べ物は「じゃこてん」です。JR松山駅改札口のすぐ脇にある売店で立ち食い用に求めたことを覚えています。名物駅弁に「醤油めし」があります。この地方ではごぼう、にんじん、油揚げ(松山揚げ)を濃い口醤油で炊き込んだご飯を「醤油めし」と呼ぶそうです。このご飯の上に鶏肉、椎茸、筍、蓮根、錦糸卵などを豪華に配した駅弁です。掛け紙には松山の方言が書かれています。この駅弁を手に下灘を訪れ、伊予灘を望むホームでいただくのもお薦めです。(写真6) 松山駅は三角屋根が印象的な建物です。(写真7) 近く改築の予定があると聞いています。個性的で落ち着いた佇まいの駅が少なくなり、画一的な駅が増えているように感じます。いい顔の松山駅を期待しています。

醤油めしの掛け紙 JR松山駅

写真6 醤油めしの掛け紙/写真7 JR松山駅

 

ホームの真下に海が見える駅が鶴見線の海芝浦駅です。海が近い、ということでは一番と思います。ホームの手すりの下まで海の水がきています。(写真8) 覗き込むと吸い込まれそうで少し怖かったことを覚えています。羽根を広げた鶴を思わせる「鶴見つばさ橋」が対岸に見えます。(写真9)

海芝浦駅のホームと海
写真8 海芝浦駅のホームと海

鶴見つばさ橋
写真9 鶴見つばさ橋

この駅はある企業の敷地内に作られているとのことで、社員証が無ければ改札を通ることができません。周りは海ですから、ホームから出ることができません。乗ってきた列車で戻るか、次の列車をホームで待つことになります。筆者は経験ありませんが、このホームから見る工場の夜景は素晴らしい、と聞いています。時間に気を付け、くれぐれも行きはぐれのないように、そして不審者に間違われないように注意してお楽しみ下さい。

海芝浦駅にはJRの鶴見駅から行きます。大きな鶴見駅の端で、別の改札を通りますと鶴見線です。頭端式のホームから列車は出ます。この鶴見線には由来のある駅名がいくつかあります。「安善駅」は安田財閥の安田善次郎氏、「浅野駅」は工業地帯の開発者で浅野セメント創業者の浅野総一郎氏、「武蔵白石」は白石元治郎氏にちなんだ駅名です。国道15号線と交叉するところから付けられた駅名が「国道駅」です。ロングシートだけで景色が少し眺めにくいのが残念ですが、短い路線ですのでそれほど苦にはなりません。この鶴見線でもっとも列車が少なく行くときに注意が必要なのはこれも由来のある大川駅です。週末の朝一番で行かれるのが空いていて筆者のお薦めです。

 

鎌倉高校前からの海

江ノ島電鉄、通称江ノ電の鎌倉高校前のホームのベンチは海に向って置かれています。そこに掛けますと目の前にきらきら光る湘南の海が広がります。一年を通じてサーファーが波に乗り、ヨットが風を受けて走っています。(写真10) 筆者の見た湘南の海はいつも明るい海でした。水面に反射する陽が眩しいのを我慢してじーっと海を見ていると、考えていることも忘れ、心が落ち着き、時間を忘れます。時折入る電車には結構大勢の人が乗り降りしますが心ゆくまでいられます。すぐ前を国道が走り、右手には江ノ島が見えます。しかし、海に吸い込まれますと何も気にならなくなります。

鎌倉側の改札を出てしばらく歩きますとドラマや映画で有名な踏み切りに出ます。そのまま渡ればなんでもないところですが、少し山側に上がりもう一度踏み切りを見て下さい。ドラマのシーンが甦ると思います。浜辺からみるサーファーはホームから見るのとまた違った味わいです。(写真11) 遠くまで見渡せる日であれば富士山が見えます。(写真12) こんな日はきっといいことがあります。

サーファー 写真11  サーファー

浜辺からの富士
写真12  浜辺からの富士

鎌倉高校前には藤沢か鎌倉から江ノ電に乗ります。藤沢から乗ったときは江ノ島、腰越の次です。鎌倉からでしたら七里ヶ浜の駅の次です。神社の参道を横切ったり、市内電車のように走ったり、と沿道の景色がさまざまに変わる江ノ電ですが、ホームから海がみられるのはこの鎌倉高校前だけです。

 

流氷が接岸することで有名なのが釧網本線の北浜駅です。(写真13)

北浜駅 写真13  北浜駅

北浜駅の浜辺と遠望 写真14  北浜駅の浜辺と遠望

網走から4つ目の駅です。無人駅ですが、喫茶店が入って駅を守ってみえます。写真のようにホームに入線した列車のすぐ横が浜で、波が打ち寄せています。(写真14)

毎年、冬にはこのオホーツクの海を流氷が埋め尽くすそうですが、筆者はまだそれに会ったことがありません。最近では流氷が少なくなって、沖合に来ていても浜には着氷しないとか、風によって一夜で着氷したり消えたりするとか、店の方に伺いました。晴れて空気が澄んだ日には遠く知床連山から斜里岳までが見えます。(写真15)

知床連山遠望 写真15  知床連山遠望

駅の横に自由に登ることができる展望台が作られ、山の名前も書かれています。冬には風が冷たく長くはいられませんが、行かれた折りには上がってみてください。鉄道写真ファンの方にはすでに知られていますが、入線する列車を撮影するポイントでもあります。(写真16)

北浜駅に入線する列車 写真16  北浜駅に入線する列車

冷えた体を温めるには「ホタテカレー」がお薦めです。2度目に訪ねたときは「海鮮カレー」という名前になっていました。多分、同じと思いますが、心配でしたら店の方に聞いてみてください。この店の名前は「停車場」です。列車から降りて駅舎に入りますと天井から壁まで一杯に貼られた名刺が眼に飛び込んできます。見渡しますと右手にメニュー板を立てた店の入口が見えます。(写真17)

待合室と停車場入口
写真17  待合室と停車場入口

店の中は結構広く、ホームに面した席からはガラス越しに海も見えます。この店のシート、棚や天井の扇風機などを見て下さい。列車で使われていたものです。車窓を楽しむ気分になれます。ホタテカレーをいただきながら着岸した流氷を見る日が楽しみです。

♪ あ~ぁ、ひとは昔々 鳥だったのかもしれないね
こんなにも、こんなにも、空が恋しい

と歌ったのは中島みゆきさんです。太古、人は海から生まれました。海が恋しいとき、人は海に帰っていくのかも知れません。

 

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Always Railways
(1)東京駅小景
(2)紅花の里、仙山線高瀬
(3)御茶ノ水散歩
(4)鉄道本の一大集積地と神保町徘徊
(5)寝台急行「はまなす」に乗る函館小旅行
(6)飫肥を周ってJR最南端の駅で開聞岳を見る旅
(7)夕陽と萬代橋の街、柳都新潟
(8)原鉄道模型博物館と鉄道発祥の地、横浜
(9)留萌本線の日、増毛、そして明日萌
(10)新幹線列車名雑感
(11)ホームから海が見える駅
(12)江ノ電で行く海街散歩
(13)ダルマ駅を訪ねて(前編)

 

2016年04月14日 | Posted in 新着情報, 鉄道コラム Always Railways | | No Comments » 

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