Always Railways (12)江ノ電で行く海街散歩

「すずちゃん、鎌倉に来ない」。母が違う四女のすずに長女の幸が唐突に掛けた言葉で4人姉妹の生活が始まります。映画に出てくる駅での別れは悲しい別れがほとんどと思います。しかし、「海街diary」の河鹿沢駅での別れは新しい生活への希望に溢れていました。姉たちが乗った列車を追いかけてホームを走り、大きく手を振るすずの顔が明るく輝いていました。

2015年に公開された映画「海街diary」(是枝裕和監督)は父が消え、ついで母が去り、後に残された3姉妹と、父とが遺した末の妹の物語です。しっかりものの長女幸からの言葉に、「行きます」と、異母妹のすずが答えたのは列車の扉が閉まるときでした。父の四十九日を済ませたすずが鎌倉に来るところから新しい4姉妹の緩やかな時間が流れ始めます。

この映画の大半が江ノ島電鉄、通称江ノ電の沿線で展開されます。江ノ電は鎌倉と藤沢を結ぶ全長約10km、全線単線の路線です。沿線には江ノ島など観光地も多く、シーズンには4両連結の車輛が満員になります。時々映画を振り返りつつ、江ノ電沿線の海街の半日散歩をしてみたいと思います。

 

一日乗車券である「のりおりくん」600円を藤沢駅の券売機で購入して江ノ電散歩を始めます。(写真1) 藤沢駅はトレイン・シェッド空間が印象的な駅でした。車止めのところには「無事帰る」ことを祈っている蛙が鎮座しています。(写真2)

1日乗車券「のりおりくん」  無事カエル
写真1                  写真2

 

最初の降りるのは江ノ島駅です。江ノ島と次の腰越の区間、江ノ電は路面電車のように一般の車と並んで走ります。専用軌道から道路に出てくるところは一見の価値があります。(写真3)

江ノ島駅   江ノ島駅
写真3a                  写真3b

ここの交差点のS字カーブは日本最小のR-28mです。ここに「江ノ電もなか」の扇屋があります。江ノ電から寄贈された600形の運転台がそのまま店の顔として使われています。(写真4)

「江ノ電もなか」の扇屋写真4

交差点にある瀧口寺に参拝し、そのまま腰越まで歩きます。
腰越から再び江ノ電に乗り、すぐ次の鎌倉高校前で降ります。この駅は関東の駅100選にも選ばれている駅で、前回の「ホームから海が見える駅」で紹介しました。この駅の改札を鎌倉側に出たところに踏切があります。吉田秋生作のコミック、「海街diary」の第1巻の表紙カバーの絵がここです。スラムダンクにも出てくる踏切で、海外からの観光客も含めシャッターを切る人が絶えません。(写真5)
鎌倉高校前から鎌倉に向って線路沿いにしばらく歩きますと峰ケ原信号所です。単線の江ノ電は駅で列車交換をしますが、それ以外に信号所でもすれ違いをします。この信号所を少し過ぎたところから江ノ電と富士山が一緒に撮影できるポイントがあります。線路脇ですぐ横を車も通ります。軌道内には決して入らず、くれぐれも注意して撮影してください。(写真6)

スラムダンクにも出てくる踏切
写真5

江ノ電と富士山が一緒に撮影できるポイント
写真6

さらに線路沿いに進みますと間もなく七里ガ浜の駅です。この駅のすぐ横にアマルフィイのスイーツの店があります。「湘南の波・・・鎌倉七里サブレ」はレモンが薫る一品です。駅から右に折れますと七里ガ浜にでます。この浜辺は4姉妹が仲良く散歩するところです。富士山の絶景ポイントで、江ノ島と富士山を一緒に望むことができます。鎌倉プリンスホテル近くの踏み切りは江ノ電と富士山が一緒に撮影できるもうひとつのポイントです。(写真7)

鎌倉プリンスホテル近くの踏み切り     写真7
稲村ガ崎の海岸通には浜辺に降りる丸階段が複数あります。映画「海街diary」で、恋人である医師の椎名に幸が別れを告げるのがこの階段です。映画ではきれいな大人の場面になっていますが、コミックでは別れた後の幸が夜勤疲れで爆睡するところ、サンドイッチを狙って急降下してきた鳶をバックで撃退するところなど、映画以上の展開も描かれています。(写真8) (映画の階段とは場所が異なります)
稲村ガ崎・海岸通の丸階段
写真8

稲村ガ崎駅の次が極楽寺駅です。この近くに姉妹たちの住処があります。こぢんまりとした駅ですが、落ち着いた佇まいで、桜の季節には華やかに彩られるそうです。(写真9) 駅に続く坂道を朝、息せき切ったすず達が駆けおりてきます。写真で、線路脇の道の奥に赤い屋根が小さく見えているのが地蔵尊 (写真10) で、線路を渡ったところにあります。トレーニングで走るすずだけでなく、4姉妹を見守っています。極楽寺はその近くです。線路を跨ぐ橋が桜橋で、そこから江ノ電唯一のトンネルである極楽洞を見ることができます。欄干も低く、横は車も通る橋です。くれぐれも注意して見てください。(写真11)

極楽寺駅
写真9

駅に続く坂道  江ノ電唯一のトンネル、極楽洞
写真10                 写真11

次の長谷駅は鎌倉と並び観光の中心地です。駅を出て山側に向いますと間もなく長谷寺です。紫陽花で有名ですが、その季節には長蛇の列となります。(写真12) この長谷寺では3ヶ所、見ていただきたいところがあります。まず展望台です。本堂の脇の階段道を頑張って登ってください。登り切りますと平な道になっています。そこが展望台です。鎌倉の町並みと海岸が一望でき、由比ガ浜海岸のサーファーが水鳥のように見えます。映画「海街diary」で、すずが幸に連れられて鎌倉と海が望めるところに行きます。堪えていた想いが堰を切ったように迸る場面です。映画のロケ地はここの展望台ではありませんが、それと似たところです。(写真13)

長谷寺  長谷寺の展望台からの景色
写真12                     写真13

長谷寺には微笑み地蔵さんがいます。(写真14) 境内をゆっくり散策していただきますと見つかります。急ぐ方は案内表示に注意して探してみてください。何ともいえない優しい表情をしています。もうひとつ見ていただきたいのが本尊の十一面観世音菩薩像です。間近で拝みますとその素晴らしさに圧倒されると思います。

微笑み地蔵  国宝 鎌倉大仏
写真14            写真15

長谷寺からさらに山側に足を伸ばしますと高徳院です。露座の大仏として歌われている国宝の鎌倉大仏です。(写真15) コミックの第4巻の口絵には大仏の草鞋が描かれ、鎌倉大仏の胎内に入る場面も出てきます。ここの近くにも食事ができるところが沢山あります。写真は筆者が味わったしらす丼です。(写真16) 高徳院近くの小ぶりの店でいただきました。しらす漁がまだ解禁になっていなかったため釜揚げしらすでしたが美味しかったです。
しらす丼

 

 

 

 

写真16

駅にもどる途中に鎌倉ジェラードがあります。ここでコーヒーフロートを頼みますとアイスクリームの代わりにたっぷりのジェラードが載ってきます。この店の向い側には「鎌倉まめや」の本店があります。季節の豆「りんご」など定番品以外にも沢山揃っています。

このあたりから横道に入ると御霊神社に出ます。参道を横切り鳥居のすぐ前に江ノ電の踏切があることで有名です。地図を見ますと極楽寺を出た列車がトンネルを抜けてそのまま進みますとこの神社の境内に入ってしまいます。神社を裂けるため、トンネルを出てすぐ大きくカープを切り鳥居の前を通過している、という感じです。 (写真17,18) ちなみにトンネルの長谷側の入り口は「千年開洞」といいます。

トンネルを出て急カーブ  参道を横切る列車
写真17                 写真18

参道をまっすぐに戻りますと角に力餅屋があります。映画「海街diary」にも時々出てきます。少年サッカーチームオクトパスのメンバーで、クラスメイトでもある風太からすずが教えられたのが福面まんじゅうです。すずは風邪を引いた風太の見舞いにこの饅頭を買っていきます。ちなみにこの店の名物は権五郎力餅です。(写真19)
力餅屋
写真19

長谷を出ますと江ノ電は両脇の軒先をかすめるようにして鎌倉駅に入ります。沿線には江ノ島水族館などまだまだいろいろありますが、今回の散歩はここまでにします。皆さんの足で歩いてみて下さい。

 

吉田秋生:海街diary 1 蝉時雨のやむ頃   小学館(flower comics)
吉田秋生:海街diary 2 真昼の月      小学館(flower comics)
吉田秋生:海街diary 3 陽のあたる坂道   小学館(flower comics)
吉田秋生:海街diary 4 帰れないふたり    小学館(flower comics)
吉田秋生:海街diary 5 群青   小学館(flower comics)
吉田秋生:海街diary 6 四月になれば彼女は 小学館(flower comics)
吉田秋生:海街diary 7 あの日の青空  小学館(flower comics)

 

 

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Always Railways
(1)東京駅小景
(2)紅花の里、仙山線高瀬
(3)御茶ノ水散歩
(4)鉄道本の一大集積地と神保町徘徊
(5)寝台急行「はまなす」に乗る函館小旅行
(6)飫肥を周ってJR最南端の駅で開聞岳を見る旅
(7)夕陽と萬代橋の街、柳都新潟
(8)原鉄道模型博物館と鉄道発祥の地、横浜
(9)留萌本線の日、増毛、そして明日萌
(10)新幹線列車名雑感
(11)ホームから海が見える駅
(12)江ノ電で行く海街散歩
(13)ダルマ駅を訪ねて(前編)

 

2016年07月28日 | Posted in 新着情報, 鉄道コラム Always Railways | | No Comments » 

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